SNSでは5月頃に結果報告として掲載していたのだが、うっかりこちらのブログには記載していなかったので見落とした方も多かっただろう。また、直後のダイビング系イベントの講演の題材としていた事からそこまで詳しくは記載していなかった。丁度、10月25日の朝日新聞夕刊において、サイパンの”レック”の現状と、保護プロジェクト、そして現地ガイドたちの奮闘ぶりが掲載となったことにより、改めてこちらに書き残したいと思う。
◉太平洋の激戦地に沈んだ戦跡を3D化、現地ダイバーらが保存活動へ(有料記事)
今年4月、私はサイパンへと向かった。成田からサイパンまで直行便で3時間半。現在、直行便は週に3便とピーク時に比べると減ってしまっているのだが、その近さは沖縄に行くのとそう変わりはない。最近のサイパンはコロナ禍、何より円安の影響もあり日本人観光客はかなり減っているのが実情だ。私が行った4月も観光客のほとんどは韓国人で日本人はまばらであった。
サイパンを訪れた目的は、ECU(イーストカロライナ大学)が研究主体となって動いているNOAA(アメリカ海洋大気庁)のプロジェクトにチームの一員として参加する為だ。
期間は約1ヶ月。
このチームのメンバーには、日本人水中考古学者である山舩晃太郎氏が携わっており、私をチームの一員として招いて下さったのだ。
多くの沈没船や航空機が眠るサイパン…
私がよく使うところの戦争遺産。考古学的には「水中文化遺産」という表現となるわけだが、1944年のサイパン島の戦いにおいて日米双方多くの犠牲者を出した事実は今も陸上にある多くの戦跡が物語っており、同じように水中にも多くのポイントがあることは知っていたのだが、以前サイパンを訪れた際にはその一部だけしか撮影できなかった。
戦争遺産に対して「記録」と「伝承」を目的に活動をしてきた私にとって、水中考古学は兼ねてより注目してきた分野であり、それらに触れられるこの機会は「保護」や「保存」といったアプローチの方法や考え方を学べる貴重な機会となった。
今回のプロジェクトリーダーであるECUのジェニファー教授は水中考古学の世界ではその世代のトップと言われる女性研究者であり、私をとてもを温かく迎えてくれた。後半からは日本の九州大学のチーム、そしてROV(水中ドローン)の日本のチームも合流し、ひとつ屋根の下で生活をした。
今回のプロジェクトの内容をいくつか紹介したいと思う。
上記写真は、沈没船にドリルで小さな穴を開けて行う検査測定。そこで検知された化学物質の濃度によって、腐食の種類や進行具合などを測定可能で、更には船上からそのポイントの酸素濃度や塩分濃度を同時に記録することで、最適な保存方法が検討できるそうだ。1人1人ダイバーの役割は明確であり、前の2名が測定を担当、測定の為に開けた小さな穴を検査が終わり次第パテで補修する役割として、後ろに見えている2名が担当した。
上記写真は”eDNA”の採取。eDNAというのは”environmental DNA”「環境DNA」を指すそうだが、写真のように遺跡(今回の場合は沈没船)に付着している微生物などを採取、それらを分析することにより、この環境にどのような生物がいるのか、そしてその生物がどのような影響を与えるのかということを調べることができるそうだ。
水中ドローン(ROV)部隊は、ダイバーの行けないような水深にも行けるのが強みだ。今回は九州大学のチームが同行し、マルチビームソナーなどで得た海底地形のマップから、人工物に近い形状のものを狙い、水中ドローンを投入して調査した。空中ドローンなどのように1人で出来るものと思い込んでいた私は、動く船や潮流の影響、有線というところのケーブルワークなど、相応のチームワークが要求されることを知り、勉強になった。
チームには、Task Force Dagger Special Operations Foundationも参加。アメリカ陸軍・海軍・空軍・海兵隊の特殊部隊(USSOCOM)において病気や負傷した隊員をサポートする財団で、リハビリの一環のプログラムとして今回、調査・探索に加わっている。リブリーザーを使用してのチームであり、オープンサーキットを利用した(レジャーダイビングなどの形式)ダイバーよりもより深く、長く潜ることができる。心に傷を負っている隊員もいることから、肖像権に対してルールがある為にこちらでは器材のみを紹介する。
今回行われたプロジェクトの市民参加型の発表会も行われた。来場したゲストからも質問が飛び交い活発な議論が行われた。文化遺産を継続して保護・維持していくには、関係者だけではなく市民単位での意識や理解が必要となる。
参考までに今回、私が潜った”レック”をここに記載しておく。
・零式三座水上偵察機
・二式飛行艇
・シャーマンタンク(M4中戦車)3両
・大発動艇3隻
・松安丸
・LVT(アムトラック)2両
・PB2Y Coronado
・PBM Mariner
・TBF/TBM Avenger
・スチーマー(と呼ばれている船)
・サブチェイサー
今回はサイパンの日系ショップのガイド陣にも大変お世話になった。このタイミングにショップの垣根を越えて多くの日本人ガイドが戦跡に対し真摯に向き合い、保護の為にそれら遺跡の3Dモデルの制作に取り組む姿は他に例のない光景であった。折角なのでそちらも他サイトにて紹介をされているので紹介しておこうと思う。
◉日本人ガイドたちが挑む戦跡の保全活動と水中フォトグラメトリ(外部サイト)
上記で紹介されているフォトグラメトリは今回、声をかけてくださったKOTAさんこと山舩さんの専門分野であり、多くの実績を残されてるので気になる方はぜひ注目をして欲しい。
できれば近いうちに、このサイパン水中文化トレイルを再訪することを願っている。その際はぜひ、多くの友人、興味のある方と一緒にいけたらと考えているので、「戸村がそんなことを考えている」と心に留めておいて欲しい。
このプロジェクトに携われたことは私に取って今後の大きな財産となるだろう。
最後に、2023年10月25日発売の月刊「丸」2023年12月号において海底のレクイエム111 「サイパンの零式三座水上偵察機」を紹介させていただいている。
こちらもぜひご覧いただけたらと思う。
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